Design and Shaping Techniques of Old Noritake

オールドノリタケのデザインと整形技法

国際色豊かでタイムリーなデザイン
 

森村ブラザーズの初代デザイナー和気松太郎は日米を十数回往復し、アメリカの最新の流行を日本の画工に伝えることに務めました。
週末は公園に出かけたり、復活祭やクリスマスなど着飾った人が集まるニューヨーク五番街の角に立って一日中観察し、女性の帽子や洋服から流行をいち早くとらえ、そのデザインを陶磁器に写しこむ画帖を作り日本に送り込んだのです。
とはいえ、当時はファックスや電子メールのない時代です。画帖はニューヨークから大陸横断鉄道に乗せ、さらに船で横浜まで運ぶため、膨大な時間を掛けて送られました。
さらに生産に時間を掛けると流行に後れてしまうため、わずかな時間で陶磁器を完成させ出荷するというシステムを作り、時代の流れに遅れない事業を成し遂げました。
そしてヴィクトリア王朝風から、アール・ヌーヴォー、そしてアール・デコまで時代の最先端のデザインを採用し続けました。
国際色豊かで伝統的デザインとの融合、洗練された芸術美、実際にその作りだされた陶磁器たちは世界中のコレクターを魅了し、愛されました。



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デザインの変遷

Caption

クラシック(ビクトリア王朝風)

欧米のユーザーの嗜好が西欧の王朝風の絢爛豪華な陶磁器にあることを掴み、デザインの大転換を図りました。初期のオールドノリタケの作品です。
ビクトリア王朝風の華麗なフォルムに、コバルトや金をふんだんに使い、盛り上げ技法やくさらし(エッチング)技法など独自のデザインが数多く開発され、品の良い豪華さを醸し出しています。
主に花瓶や飾り壷、ティーセット、喫煙具や化粧具類などのファンシーウエア(嗜好製品類)を中心に、非常に多くの種類の製品が作られました。その美しさがオールドノリタケの魅力を確固たるものにしています。

アールヌーヴォー

1900年のパリ万博を境に爆発的な流行となった芸術様式です。 それまでのアカデミックな格式張った芸術から飛び出し、自由な素材、自由なモチーフを使い、さまざまな分野に大胆な表現を可能にしていきました。
建築では、バルセロナのサグラダファミリアやパリの地下鉄の入り口などが有名です。 工芸品ではエミール・ガレのガラス工芸などがあります。
アート分野では草花や昆虫・動物などがモチーフになることが多く、 オールドノリタケの図案にも良く使われています。パステル調のタッチで流れるような曲線が特徴です。

アールデコ

第一次世界大戦が始まると、装飾性の高いアールヌーヴォーから、 キュビズムや古代エジプト、アステカ文化の装飾、さらに日本や中国など古今東西のデザインの影響を受け、 幾何学模様や原色による対比表現などに特徴があるアール
デコへと流行が移ります。
より低コストで大量生産とデザインの調和が得られ1925年、パリ国際装飾美術博覧会(別名アール・デコ博)で花開きます。
大正期のオールドノリタケはこのデザインを取り入れ、 モールド技法を取り入れた立体的な製品にラスター彩を施した製品で非常に高い評価を得ました。

整形技法

盛り上げ(MORIAGE/Slip-trailed decoration)

盛り上げとは、陶磁器の表面に粘土等で盛り上げ、立体的な装飾をする技法であり、オールドノリタケの最も知られている技法である。欧米でも「MORIAGE」と呼ばれて親しまれています。

盛り上げには以下のような様々な技法があります。

一陳盛り

この技法は一陳(イッチン)という道具を使うもので、現在も陶芸技法として使われています。

一陳は江戸時代の日本画家・一陳斎(久隅守景の雅号)が考案したことから名づけられたと言われています。

もともとは京友禅や加賀友禅の染糊線を描くための道具でしたが、これに絵の具の代わりに泥漿(粘土を水で溶いたもの)を入れて陶磁器の表面に描くことにより、繊細な表現ができるのです。

大変美しい装飾ができるため、この技法で装飾された作品には高い評価が与えられています。

金盛り

素焼きした陶磁器に絵付けをしたり地色を塗った上に、泥漿(でいしょう)で点や絵などを描いて一度焼成し、さらに金漿(きんしょう)を筆や刷毛を使って塗り被せる方法です。あたかも金で盛り上げてあるかのように豪華に見えます。

金点盛り(ビーディング)

点盛り(素焼きした陶磁器に泥漿をイッチンで点状に盛り上げる)をして焼成した上に、金を丹念に一つ一つ塗っていく方法です。
大変細かく根気のいる作業であり、かつ大変美しい技法です

アクアビーディング

水色の泥漿で点盛りしたもので、あたかも水の泡のように見え、大変珍重されている技法です。

エナメル盛り(ジュール)

主に金彩と併用される技法です。
金彩や金盛りの上にエナメルを注射器のような道具で点状に盛り上げたもので、宝石のような美しさがあるためジュールと呼ばれています。

ウエッジウッド風

イギリス・ウエッジウッド社の代表的な製品に、粘土をカメオ状に型にはめて作った柄を張り付けて作るジャスパー法と呼ばれるものがあります。
オールドノリタケ製品は、一見してウエッジウッドのジャスパー法で作られたように見えますが、型にはめるのではなくイッチンや竹ベラ、筆などを使って盛り上げて作られています。ウエッジウッドを意識して作っていたということでしょう。

その他の盛り上げ技法

上記のほかにも「ガレ風盛上げ」、「泥漿盛り上げ」、「蜘蛛の巣盛り上げ」、「レース盛り上げ」などの盛り上げ技法があります。

■その他の技法

オールドノリタケには、盛り上げ以外にも以下のような独特で様々な技法が使われています:

腐らし、金腐らし(エッチング)

版画のエッチングの技法を使った方法で、森村組では「腐らし」と呼ばれていた。
磁器のまま残したい部分にはコールタールの紙を貼りつけ、フッ化水素の溶液に漬けます。
コールタールの貼られていない部分は腐食して艶が亡くなりくぼみのようになります。そこに彩色や金彩を施すとマットな感触になり、コールタールを貼った部分は艶があるためはっきりと区別できる。
大変風合いのあることからオールドノリタケの代表的な技法の1つとして評価されている。

タピストリー(布目仕上げ)

整形直後の柔らかい生素地に、麻布のような粗い目の布、または絹のような細かな布目の布を貼り付けて焼きます。
焼くと布は燃えてしまい、布目だけ残ります。
その地肌に絵柄を描くと油彩用のキャンバスに描いたように見え、独特の風合いが得られます。
作られた数が少ないため希少価値があります。

コラリーン

コラリーン(コラレーン)という名称は、英語で「珊瑚のような」を意味する Coraleneに由来しています。 その技法は細かいビーズの部分が、珊瑚の肌触りに似ていることから名付けられたものです。
磁器を絵具で塗りつぶし、デザインに沿ってガラスビーズを貼りつけたあと、金彩で囲んで仕上げるという繊細かつ複雑な技法です。ガラスビーズの部分は光の入る角度によって、色が変化し浮き上がって見えるため、さまざまな角度から作品を楽しめます。

モールド(石膏型でレリーフを造形)

石膏で器の型を作り、油で捏ねた粘土で人物や動物などの形を盛り上げて貼りつけます。
それを基に原型を作り、石膏などで使用型を作ります。
その使用型に泥漿を流して生素地の器を作り800~1100度の高温で焼成します。それに彩色を加えると立体的なレリーフが浮かび上がります。
大変手間のかかることから希少であり、高い評価を得ています。

絵付け技法

オールドノリタケの絵付けは独自のものにヨーロッパの技法なども柔軟に取り入れ、豊富なデザインを作り出し、そのことによってさらに高い評価を受けることになりました。

ハンドペインティング(手描き)

陶磁器の裏印にもHand paintの文字が書かれています(すべてではありません)が、基本はすべて手描きで絵付けされています。
その絵付師は、廃藩置県で免職となった各藩の絵師(日本画家)たちも多く、しっかりした技術力を持っていました。
また、大正、昭和期には日本洋画界で名のある作家もノリタケで絵を描いていました。しかし、工業製品であるため作者のサインはありません。
とはいえ中にはわからないように作家のサインが入っているものもあり、作家のプライドを垣間見たりすることもあります。

ぼかし

オールドノリタケの特徴的な絵付け技法のひとつとしてぼかしがよく使われています。
ぼかしは伝統的な日本画の技法であり、ヨーロッパ製品にはあまり見られない絵付け方法です。

だみえ

日本画の「濃絵(だみえ)からきた名前のようですが、磁器の表面を模様や地色で塗りつぶす方法です。
金ダミや呉須ダミがあります。

マーブル(スプレー吹きぼかし 大理石風)

スプレーで数色の色を使い大理石の柄をつけ、その上に彩色する方法。
アメリカではマーブルと呼ばれ親しまれている。

漆蒔き

上絵の地色をむらなく塗るため、最初に筆で漆を塗り、さらにタンポンなどでむらなく丁寧に漆を塗りつけます。
その上に粉末絵の具を振りかけて彩色します。深みのある美しい色地肌が得られます。
※画像は漆蒔きに、特に珍しい陶胎七宝の技法も施された作品

コバルト(瑠璃色)

俗に言うコバルトブルーよりも少し濃く深みのある美しい青です。材料には酸化コバルトが用いられていました。
製陶用としてはドイツ・マイセンの製陶所によって開発されました。
フランス・セーブル窯のコバルトが「王者の青」として特に有名で、ヨーロッパ王室でも愛用されていました。

ラスター彩

オールドノリタケではアール・デコの作品に多く使われています。
パール状の美しい輝きがあり、自立し始めたヨーロッパの女性たちに熱狂的に愛されました。
ラスター彩は9~14世紀にイスラムの陶器に使われていたが、その後使用されていなかったがアール・デコの彩色法として復活しました。
ここで使われていたラスターは金属や貴金属を王水で溶解し、さらに参加バルサムを化合させ、それを絵付師やすくするために松脂(ロジン)を添加して作られました。

ポートレート(肖像画)

転写絵付けにより人物画を絵付けした製品です。当時人気のある女王や僧侶などがモデルとなっていました。
プロシアのクイーン・ルイーズやレカミエなどの婦人像がよく使われました。