
田中清貴からご挨拶
みなさま、こんにちは。
木漆芸家の田中清貴です。
この度は当サイトにて私の作品を見てくださりありがとうございます。
木工というのは奥深いもので、まずいくつかの部材を組み立てて作る「指物」と木の塊を掘って作る「刳物」(くりもの)があります。 「指物」=足し算、「刳物」=引き算の要素があり、それぞれ違う技術や感覚・経験が必要となります。特に「刳物」というのは、木の表と裏のどちらを掘るかによって全く異なった木目が出ますので、同じ形の作品でも見え方、感じ方が変わります。
私の作品はこの「指物」と「刳物」の両方の技術を使い、仕上げに漆を塗っています。この漆を塗る作業をすることで作品はより美しくなり、そして水に強くなるので、シミが出来ずに汚れにくく衛生的です。
基本的に木工作品は拭き漆(オイルの場合もありますが)で仕上げ、木目と木の色をきれいに強調するのですが、これは一般的な作業で皆さまがよく目にする木工作品の特徴でもあります。その基本作業に加えて、華やかな色の漆を使用し、強度を強くするための布貼りを行い、乾漆(乾燥させた漆の粉)を蒔き付け、その後に地粉(珪藻土・ケイソウを焼いたもの)を蒔き付けます。他にも貝を貼りつける螺鈿や蒔絵など、これらのものを施して作品を仕上げていきます。
この製作方法はバランスがとても大事で私の一番こだわっている所でもあり、素材が「木」であるため木目の表現もとても重視しています。そして、表現すべき木目は時にデザインを邪魔してしまったり、逆にデザインが木目を邪魔したりすることもあるので、木というのはとても気難しい素材であると言えます。
私のこだわるバランスとは、木目とデザイン、どちらも譲ることなく、どちらも素晴らしく美しいということです。 そして、その中に独創性も必要だと思っています。
全てを美しく表現するために、デザインは『シンプルで普遍的』であることを意識しており、シンプルにこだわるのは木目の美しさもさることながら、木の温もりや存在感、やさしさを損なわないためです。そして、普遍的が不可欠であるのは「いつの時代でも、どこの地域でも、誰にでも」使いやすいということがあるからです。
作家としての『独創性』、これは「漆芸」を取り入れることで表現しています。私は「漆芸」を先に学んでいますが、それは木工作家としては珍しいスキルだからこそ、私の武器で特徴になっています。そしてそれらを基本にして、プラスαの遊び心を大切に制作をさせていただいています。
この『シンプル』で『普遍的』で『独創性』のある作風に辿り着くには、私ひとりでは到底できませんでした。全国の個展会場で、20年以上の歳月をかけて出会うことができた多くのお客様たちと、作品や多岐にわたるいろいろな対話をさせていただき続けた結果が『ひとつのかたち』となり、今の作風になりました。
この『ひとつのかたち』が今では私の大切なこだわりとなり、私を育ててくれたといっても過言ではありません。これから先も、今までと変わることなくお客様と繋がり、さらに進化し続ける『ひとつのかたち』がどのように変化を遂げ、どのような形になっていくのか…私どもと是非一緒に楽しんでいただきたいと思っています。
目指すところは「なんだか良いな、なんだか愛おしいな、手元に置いておきたいな」と感じることのできる、物にたとえられない・言葉にできない、そんな気持ちです。物でありながら物ではない技術の向こう側をお客様とともに作りあげていくために、これからも活動していきたいと思っています。